#CASE 01:君島亜弥さんのお悩み


「まーいー、早く帰ろうよぉ」

「ダメよ、玲緒。今日はこれからお仕事があるんだから」

「えー、そんなの白河沙雪あたりに押しつけちゃえば、ささっと終わらせちゃうわよー」

「玲緒? そーゆー事言わないの」

「ぶーぶー」

「もう……じゃあ、今日のお仕事がちゃんと出来たら……」

「出来たら?」

「玲緒のだ~い好きな、ガトーショコラ、焼いてあげる♪」

「が、ガトーショコラ……やる! やってみせるわ、麻衣♪」

「もぅ……現金ねぇ」

「で、今日の仕事って言うのは、何なのかしら? 麻衣」

「いわゆる……『お悩み相談室』ね。ミカ女附属部のコたちの、悩みを聞いてあげるの」

「えー、めんどくさーい」

「そんな事言っちゃダメよ、玲緒? 玲緒も本校のお姉さまとして、ちゃんと相談に乗ってあげなきゃ」

「お、お姉さま……?」

「そ、ミカ女本校のお姉さまとして、附属部の迷える子羊たちを導くのよ……玲緒!」

「ふ……ふふん! いいわ、この『玲緒お姉さま』が、なんでも相談に乗ってやろうじゃないの!」

「きゃぁ♪ その意気よ、玲緒♪」

「……って、玲緒の気が変わらないうちに……は~い、じゃあ最初の方どうぞ~♪」

ガラッ……
「失礼します」


「ごきげんよう。さ、そこに座って?」
「ご、ごきげんよう……ありがとうございます」


「わたしは本校3年生の沢口麻衣です。よろしくね」

「ワタシは川村玲緒よ! さぁ、アンタも名乗りなさい!」

「ちょっと玲緒……名乗りなさいって……もぅ」
「あ、わたしは君島亜弥っていいます」


「亜弥さんね。じゃあお話しを聞かせてくれるかしら?」
「はい……実は、わたしには双子の姉が居るんですが……」


「あら、お姉さんもミカ女生?」
「そうです。ちなみに同じクラスです」


「ふん! ワタシと麻衣だって同じクラスなんだからね!」

「もう……それは関係ないでしょう?」

「ぶーぶー」

「と……ごめんなさいね、亜弥さん。で、お姉さんがどうしたのかしら?」
「実は……事情があって、わたしは姉と離れて暮らしてきたんです」


「ふんふん、それで?」
「最近、一緒に暮らし始めて……あ、それでわたしもミカ女に転校してきたんですけど……」


「あら、転校生だったのね。玲緒も転校生なのよ」

「ふふん、ワタシは転校生としても、アンタの先輩ってワケね! さぁ、敬いなさい!」

「ちょ……なんなのよ、その理屈……って『敬う』とか、よくそんな言葉知ってたわね?」

「失礼ねー、それくらい知ってるわよ!」

「はいはい、失礼しました。と、ごめんなさいね」
「いえ。それでその……姉がですね、わたしに、その……」


「そのって、何なのよ?」
「えっと……いつでも一緒に居たがるというか、所構わずべったりというか……」

「あ、姉はちょっと幼い感じですので、やたらに甘える感じなんですけど」


「あー、(紗良ちゃんと楓さんみたいな感じかしら?)」

「で、何? アンタは迷惑なの? それとも姉の事がキライなの?」

「す、ストレートねぇ……玲緒は」

「えっへん♪」

「……褒めてないわよ、もぉ」
「き、嫌いなわけじゃないです。むしろ好き──じゃなくて、迷惑じゃないっていうか……」


「じゃあいいじゃない。アンタは気にせず、姉の好きなよーにさせなさい。以上!」

「ちょ……玲緒、そんな答えでいいわけ──」
「キライじゃない……好きなら……いい」


「(あら……ひょっとして亜弥ちゃんってば、お姉さんの事が……)」
「そう……ですね。おっしゃる様にしてみます。わたしの自意識過剰、かもしれませんし……」


「そうよ! 姉妹は仲良くするのが一番なんだから♪」

「もう……玲緒は一人っ子じゃないの。知ったかぶりして」
「ありがとうございます。なんだか気持ちが軽くなってきました」


「ふふん♪ その気持ちを忘れない事ね!」
「はい、では失礼します」


ガラッ……

「どう、麻衣! ワタシにかかればこの程度の悩みなんて、イチコロなんだからね!」

「イチコロって……まぁ、亜弥ちゃんもとりあえず納得してたみたいだけど」

「さー麻衣! この調子でサクサク終わらせるわよ!」

「もう……なんだか納得いかないけど、結果オーライだし……まぁ、いいか♪」

「ふふん! じゃあ次、入ってきなさい!」
