#CASE 03:小野原葉月さんのお悩み


「お悩み相談室も、ついに私たちの番ね、美夜」

「………………はぁ~」

「なんでそんなに、やる気がないのかしら?」

「だって……せっかく2人っきりの、こんな人気のない所に、璃紗に連れ込まれたから……」

「連れ込むって何よ! 人聞き悪いわよ、美夜」

「だから思わず、心の準備もしていたのに……運動部のシャワールームを借りて、体も綺麗にしてきたのに」

「美夜……本当に、何を期待していたのよ、もう」

「それが、他人の相談を聞くためだなんて……先に帰ってしまえば良かったわ」

「だと思ったから、内緒で連れてきたのよ」

「策士ね、璃紗も。悪いことばかり、覚えるのね……悪い子♡」

「ななっ、なんでいきなり、唇近づけてくるのよっ!!」

「本能……かしらね。成長した恋人に、ご褒美をあげたい、っていう」

「そういうご褒美は、家ですればいいでしょ!!」

「はぁい♡ 後でたっぷり、ご褒美あげるわね♡」

「ば、バカ……無理に付き合わせたのは、悪いと思うわ」

「でもほら、美夜の天才的頭脳なら、お悩み相談なんてあっという間に解決できそうでしょう?」

「………………」

「あれっ?(いつもだったら、ここで『当然じゃない』とか、言うはずなのに……)」

「璃紗の考え、透けているわよ。悪いけどそれくらいでは、わたくしのやる気は引き出せないわよ」

「じゃあ、どうすれば……」

「そんなの決まってるじゃない……フフフッ♡」

「み、美夜……だから、そういうのは帰ってからで……」

コンコン……

「あっ、ほら、来たわよ!!」

「ちっ、タイミング最悪ね」

「そんなこと言わないの。はい、どうぞ」

ガラッ……
「失礼します」


「ごきげんよう。付属部の人ね、そこの席にどうぞ」

「……ごきげんよう」

「(美夜、あからさまに不機嫌ね。困ったわ……)」
「先輩方、はじめまして。わたし、小野原葉月です。今日はよろしくお願いします」


「わっ、とてもしっかりしているのね。私は本校2年の、安曇璃紗です」

「……綾瀬、美夜……です」

「美夜ったら、不愛想なんだから……えっと、葉月さんはどんなことを悩んでいるのかしら?」
「わたし……同じクラスに、好きな人がいるんです」


「つまりこれは、恋愛相談ね。うんうん、続きをどうぞ」
「その相手が、その……大会社の、ご令嬢ってヤツでして」


「ああ、ミカ女には多いわよね、そういう方は」
「それに引き換え、わたしなんて……庶民の中の、庶民とゆーか」


「(何かしら。葉月さんに感じる、この親近感……)」
「わたしと蘇枋愛実さんは、身分が違い過ぎるんじゃないかって……ずっと、悩んでいるんです」


「蘇芳……あの、蘇芳財閥ね」

「美夜、知っているの?」

「ええ、とっても有名ですもの」

「そうなんだ。身分違いの恋……でもなんだか、素敵なロマンス感じるわ」
「えっ?」


「な、なんでもないわ。私、断然、葉月さんを応援するわ!」
「あ、ありがとうございます。でも、どうして……?」


「私も庶民だし、だから葉月さんの悩み、よーくわかるわ。ねっ、美夜?」

「……はいはい、そうですね(棒読み)」

「もう! やる気ないにも、ほどがあるわよ」

「だって……本当に、どうでもいいことなんですもの」

「あーもう! 葉月さんに聞こえちゃうでしょう、もっと声を抑えてよ」

「じゃあ、お先に帰っていいかしら?」

「ダメよ、もう~」
「え~っと……」


「(しょうがないわね……こうなったら、最後の手段よ)」

「美夜……後でご褒美、あげるから」

「ご褒美……」

「美夜がちゃんと、葉月さんの相談に乗ってあげたら、後で……ねっ?」

「コホン……それで葉月さんは、これからどうしたいのかしら?」

「急に、やる気が出てきたわね」
「どうしたいというか……今のままで、いいのかなって」


「身分違いということね。でもそれは、蘇枋さんに直接、何か言われたのかしら?」
「そんなことないです! 愛実さんは、そんなこと……ぜったい、言いません」


「だったら後は、もうなるようにしかならないんじゃないかしら」

「ちょ、ちょっと、美夜っ!」

「わたくしと璃紗も、家柄や頭脳には、ものすごーく大きな差があるけど……」

「頭脳は、そんなにはないでしょう!!」

「それはわたくしと璃紗の、大きな愛の前では、何の障害にもなっていないわ♡♡」
「へっ……?」


「み、美夜ったら、葉月さん、ぽかんとしちゃってるじゃない」
「いいえ、なんてゆーか……さすが、ベストカップルって感じです。すごく……」


「すごく……何かしら?」
「恥ずかしいというか……い、いえ、なんでもないです!! アドバイス、ありがとうございました」


「あら、もういいの?」
「はい。先輩たちを見習って、もう一度じっくり考えてみます」


「そう……頑張ってね」
「はい。それでは、失礼します」


ガラッ……

「うううっ……本当に、これで良かったのかしら?」

「本人が納得しているのだから、これで良かったんじゃない」

「まあ確かに、葉月さん、スッキリしていたものね」

「そんなことより、璃紗……ご褒美の件、忘れてないわよね?」

「も、もちろんよ……うん」

「じゃあ、今夜は……んふ、んふふっ♡」

「ほらほら、次の相談者が来るから」

「まだあるの? 早く帰りましょうよ」

「ダメよ、ちゃんと最後までやっていきましょう」

「そうね……だったら一人、悩み相談に乗る度に、ご褒美プラスよ」

「そ、それは……うぅっ」

「わたしく、全力で頑張るわ。次の方、どうぞ~♪」

「最終的には、すごい『ご褒美』をあげないと、いけなくなりそう……はぁ~」
