第4話 ここに、キスして
校舎から眺めるグラウンド。
今日も莉菜の妖精さんが元気に駆け回っている。
窓を開けて、大きく身を乗り出して、大きく手を振った。
「なーぎさー!!」
莉菜の声が聞こえたのか、思いが届いたのか、渚が振り返った。
遠くから渚も大きく手を振ってくれる。
何か言ってくれてる様子だけど、さすがに何を言ってくれてるのかまではわかんない。
残念。
「おべんと、持ってきたよ~~~~!!」
あれからなかなか機会が取れなくて、延び延びになってたおべんと作り。
それがやっと、今朝……!
嬉しくて、グラウンドへ飛び出して、渚の方へと駆けていく。
「ダメだよ、莉菜! また転ぶ!」
両手を広げて待ってる渚の胸へと、飛び込んだ。
「転ばないもん」
転ばないし、転んでも平気だもん。
今日のおべんと箱、横にしても簡単にはフタが開かないタッパーにしたもん。
重箱は持ち歩きに不便だってわかったもん。
えいっと渚の胸に飛び込むと、ふんわりと抱き留めてくれた。
「渚に早くおべんと食べてほしいな♡」
「もう……ありがとう! 大好き!」
……それは、莉菜のこと? それともおべんとのこと?
ま、どっちでもいいんだけど。
たぶん、両方だから。
「部長! わたし、莉菜の差し入れ、食べてきます!」
部長さんがしっしと手を振り払うような仕草と共に許可をくれた。
渚と手を繋いで、中庭へ移動。
土曜日って、人が少なくて素敵……♡
手近な木陰に腰を落ち着けて、おべんとを並べる。
「わぁ、美味しそう♡」
「うちの新人と頑張って作ったの♡」
「そうなんだ~、食べていい?」
「いっぱい食べてね♡」
渚がニコニコしてるのが、嬉しくて楽しい。
しなやかな指が、今朝、揚げた唐揚げを摘む。
ピンクの唇が開いて、白い歯が唐揚げをかじって……。
「………………」
「………………?」
「……莉菜、これ、味見した?」
「え…………」
おそるおそる唐揚げを口に放り込む。
「~~~~~~っ!!」
じゃりっとした砂のような感触の次に、脳天を突き抜ける甘さと、目の奥に突き刺さるような辛さが……!!
「お砂糖と塩を間違えたみたいね……。あと、胡椒もかけすぎかな」
冷静な声。
ううっ、顔を上げられない……!
「でも、食べられなくはない……かな」
「!!」
ちょっと涙目になりながら、渚がもぐもぐしてる。
「食べなくていいからっ! そんなの食べたら、身体壊しちゃう!!」
「いいの。莉菜の手作りは、全部、わたしのもの」
「でも……っ!」
「むしろ、わたしは心配」
「莉菜の笑顔が大幅増量中だから……悪い虫がつかないかハラハラする」
「え……」
それは、渚に思いが通じたから。
だから毎日が幸せで、自分でも莉奈がキラキラしてるってわかってるもん。
「莉菜の笑顔のためなら、胡椒かけすぎでも、塩と砂糖が逆でも、わたしは平気」
「というか、莉菜の失敗作はわたししか食べられないと思うと嬉しい」
「渚……」
胸から溢れた喜びが、身体の隅々へと行き渡っていく。
ああ、莉菜ったら、……今、すごく幸せ……っ♡
「でも、次からは味見してくれると嬉しい」
「莉菜の笑顔と向き合って食べる美味しいお弁当は、きっともっと美味しいだろうから」
「うん、うん、味見でも何でもするぅ!」
「じゃあ、約束。ここに、キスして」
「約束ね……チュッ♡」
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