第2話 あたしの困った癖
(あたしにも困った癖ができた)
(うーん……コレは、癖って言ってしまっても良いものなのだろうかと悩むところだけど……)
「あ! お湯が沸いたよ、藍!」
藍の嬉しそうな笑顔。
あたしまで嬉しくなってしまう。
「はいはーい、お湯入れるから、火傷しないように注意してね~」
電気ケトルから、沸騰したお湯が勢いよく注がれる先は――カップ麺。
普段、身体に悪いだの毒だなどと口やかましくあーやに注意してた手前、堂々と食べるのも憚られる。
……ので、隠れてカップ麺を食べてるところを、うっかり見つかってしまったのだ。
「……ねぇ。これは後から入れる油みたいのはないの?」
「まったく、これだからブルジョワは」
「食べる直前に入れる油がついてるヤツはお高いヤツなの、わたしがいつも食べてるのは、100円もしない、お安い、チープなカップ麺なの!」
「……それって、美味しいの?」
「高ければ何でも良いと思うなよ?」
「高くて美味しいのは当たり前!」
「安くて美味しいモノを見つける庶民センサーを舐めないでよね!」
「庶民センサー……」
それって何だろう?
できることなら、あたしも欲しい……。
「いい? 小腹を満たすだけのシロモノに出せる限度額なんて、せいぜい100円よ、消費税抜きで!」
「消費税……って、ニュースで聞いたことあるアレ……かな?」
「は? ニュース?」
「……あら? あーやったら、どうしてそんな顔してるの?」
「あはっ、さては、あたしが消費税を知らないって疑ってるんでしょ!」
「消費税って、お会計の時に上乗せで払うチップみたいなものでしょ」
「チップの額って曖昧で、日本の社会に馴染まないから、税金として定額制にしたんだよね」
「それくらい知ってるんだからね!」
「………………」
「あ、あれ? 違うの……?」
「……うん、思いっきり、違う……」
「えー……だって、消費税なんて、いつの間にか払ってるものじゃない?」
「……はぁ?」
「だって、お店で店員さんに言われた額のお金を出して、お金と品物を交換する、っていうシステムが、日本のショッピングのシステムでしょ?」
「………………えーっと」
「最近、値札より多めの金額を払えって言われることには……気づいてる?」
「値札? あーや、いちいち値札なんか見ながら買い物するの?」
「!!」
「ていうか、欲しいものを買うのに、どうして値段を気にするわけ?」
「それが欲しいから買うんでしょ? そこに値段は関係なくない?」
「……大アリなんですけど……」
あーやが疲れた顔をしてる。
あれ? あれれ?
あたし、何か変なこと言った?
「ま、その話は脇に置いといて、そろそろ三分経ったから、開けてみようよ」
「うん!」
ぺりぺりとフタをはがすと、ほわっと食欲をそそる匂いに包まれる。
「やーん、美味しそー♡」
「わたしね、このシリーズ、好きなの♡」
………………
「あーや、そっちのシーフードもちょっとちょうだい?」
「うん、いいわよ。じゃあ、トマチリも一口しょーだいね♡」
「うふふ……」
「うふふふ……」
「庶民フードってバカにできないわね」
「藍の言うとおり、ホントは毒かもしれないけど……」
「……遅効性の毒でもいい、あたしも毒に染まっちゃう。あーやと一緒なら、何でもいいの」
「……藍……」
「あーや、好きよ」
そうして、あたしたちは──
スパイスの効いたキスを、何度も繰り返した。