第5話 季節外れの編入生
※ゲーム本編のネタバレ要素を含んでおりますため、プレイ後の閲覧を推奨いたします。
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夏休み明け、季節外れの時期に編入生がやってきた。
見覚えのある顔に、ニヤリとする。
小野原葉月と自己紹介したその編入生は、担任の言うままに、あたしの隣の空席に座った。
「どうぞよろしく」
「ええ、こちらこそ。わからないことがありましたら、何でも訊いてくださいね」
「うん、ありがと。仲良くしようね」
『仲良くしてね』ではなく、『仲良くしよう』という言葉。
屈託のない表情と共に、差し出された手。
リアルで接した物怖じしない笑顔に、心のどこかがざわりと騒ぎ始める。
昨夜のやり取りを思い出す。
「ねぇねぇ、クラスに馴染めなかったらどうしよう~! いじめられちゃったらどうしたら良いと思う~~?」
どう答えたのか、あまりよく覚えていない。
馴染めなかったら、その時に考えろ、とか。
いじめられたら、やり返せば良い、とか。
適当に、かつ、適切(と思われる)返事をしたはずだ。
「えと……蘇枋さん、だっけ? わたしの顔、何かついてる?」
「いえ、普通に目がふたつに鼻と口がひとつ、ついていますわね」
「あはっ、蘇枋さんって美人なのに意外と面白い人だねっ」
「仲良くなれたら、すっごく嬉しいな♡」
屈託のない笑顔。
編入生なのだから、あたしの家とか、あたしのこととか、何も知らないのはわかってる。
でも……それでも、学校でこんな邪気のない笑顔を向けられたのは、どれだけぶりだろう。
取り入ってやろうという意図もなければ、蘇枋の娘に取り入ろうという下心もない笑顔に、心底、ホッとする。
「ええ……、仲良くしましょうね」
きゅっと、手を握ると、編入生の頬が赤く染まった。
「どうなさいました?」
「やー、自分から言っておいて変かもしれないんですけど、ね」
「あなたみたいな綺麗な人に『仲良くしよう』って言われると、ちょっと照れちゃうなーって」
「そんな……葉月さんったら……」
ストレートすぎる物言いに、思わず戸惑ってしまう。
こんな風に直截な言葉を使うのも、思ったことをそのまま口にするのも、蘇枋の周辺にはいないタイプ。
ネット上で遣り取りした経験がなければ、戸惑いをそのまま顔に出していたかもしれない。
「や~ん、わたし、死んじゃうかもしんない……」
「は?」
「出会った初日に『葉月さん』なんて名前で呼ばれちゃうなんて……ううう嬉しい~♡」
……相変わらず、面白い人。
あたしの周辺にはいなかった人材だからこそ、ネットでの遣り取りが成立する。
退屈な人間にはもう飽きた。
これからの学校生活、この子はどんな楽しみを提供してくれるのかと思うと、気分が高揚する。
「喜んでいらっしゃるところを恐縮ですけれど、ミカ女では下の名前で呼び合うのが習わしですのよ」
「え、そうなんですか?」
「ですから、わたくしのことも、『愛実』とお呼びくださいね」
「………………」
あら。
葉月さんったら、ガックリしてたかと思ったら、いきなりニヤニヤし始めたわ。
「習わし万歳!」
……やっぱり変な人。
こんな変人がクラスメイトに、更には隣の席になってくれたのはラッキーとしか言いようがない。
――さぁ、あなたはどんな風にあたしを楽しませてくれるの?
にっこり笑いかけてやると、頬を染めた葉月さんが、ぎこちなく──
それでも嬉しそうに笑い返してくれた。