「ここが私がいつもお世話になっている、サイクルショップよ」
「イシガミサイクル……子供のころ買いに行った自転車屋さんとは、全然違う感じです」
「スポーツサイクル専門店だからね。買った後もメンテナンスしてもらったりするから、お店選びは重要よ」
「はぁ……どこに行くのかと思ったら、また自転車関係なのね。もう帰りたい~」
「店に入る前から、何言ってるの。璃紗ちゃんたちを見なさい」
「見てみて、美夜。カッコ良い自転車、たくさんあるわ~」
「ええ、そうね……このわたくしに相応しいのも、あるかしら?」
「もう……自転車屋で大はしゃぎなんて、あの子たち子供っぽいわ」
「子供っぽさなら、ミカ女で玲緒の右に出るものはいないはずよ」
(わぁ、なんだかすごくカッコいい人だわ。ここのお店の人かしら?)
「今日は後輩たちを連れて来ました。こちら、このお店のスタッフの皐さんよ」
「みんなとても、チャーミングだねぇ。こんな可愛い子たちが自転車に興味持ってくれるなんて、嬉しいよ」
「な、なんか……楓さまや六夏とはまた違った感じの、王子様キャラね」
「また、そういうこと言う……聞こえたらどうするのよ」
(すごく、じっと見られてる……もしかして美夜の声、本当に聞こえちゃったんじゃ!?)
「キミたちの制服……どこかで見たことあるようなんだけど、それが思い出せなくて」
「そういえば、制服のままこちらに来るのは初めてでしたね。わたしたち、ミカ女の学生なんです」
「えぇっ? 皐さんってわたしたちより年上じゃなかったんですか?」
「それじゃあ皐さまは、私たちの先輩になるんですね?」
「様づけなんてしなくていいよ……そもそも高校は別の学校だったしね。ねえっと、キミは?」
「璃紗くんか。それとさっきからボクを睨み付けている、黒髪のキミは……?」
「なるほど、美夜くんは璃紗くんが大事なんだね。でも安心していいよ」
「そんな顔をしなくても、ボクに可愛い優乃がいるからさ。警戒する必要はないよ」
(詳しくはわからないけど、その優乃って人が、皐さんの恋人なのかしら?)
「わかりました。ですが見ての通り、璃紗は可愛いんです。可愛くて、可愛くて……恋人がいたとしても、好きになってしまいます」
「それを言うなら、僕の優乃だってとても可愛いよ。美夜くんだって、優乃を見たらきっと、惹かれてしまうかも知れないよ」
「はぁ~、よく人前で、これだけノロけられるわね~」
「おや、そこの小さい子は……キミはミカ女の初等部の子かい?」
「ちっ、違うわよぉ、むきいいいいいっ! よく見なさいよ、みんなと同じ制服でしょう!」
「これはこれは、失敬。ただ小さな、小さすぎる子だったんだね」
「ふぅ……玲緒が子供に見えるのは、もうお約束なんだから、そろそろ慣れればいいのに」
「でもスタッフさんが、ミカ女の先輩だなんて、色々相談に乗ってくれそうで良かったです」
「若干一名には、嫌われてしまったみたいだけど……あぁそうだ。これ食べるかい?」
「後で食べようと思って買っておいたのを忘れてね。よかったらどうぞ」
「ごく……仕方ないわね、もらってあげるわよ……はぐはぐ」
「小動物を可愛がるって、こういうことを言うのかな……心が癒されるよ」
「人見知りな玲緒さまなのに、この分だとすぐ仲良くなれそうですね……ところで美夜」
「あんまり、ああいうこと言わないでよ……は、恥ずかしいじゃない!」
「玲緒さまが子供に見えるのも、璃紗がすぐに恥ずかしがるのも、同じくらいお約束ね」
「なんか今、ムカつくことを言われたような……もぐもぐ」
「皐さんが看護学生ってことは、ここから通っているんですか?」
「いいや、ここはボクの伯父が店長をしてるだけだから、ボクの実家ではないんだ」
「だからボクは寮生なんだ。もちろん同室は愛しの優乃だよ♥」
「麻衣くん、今日連れてきた3人は、みんな初心者かい?」
「ええ……1人はまだあんまり興味はないみたいだけど、あの2人はかなりやる気になっています」
「美夜……クロスバイクと言っても、たくさんの種類があるのね。お値段もぜんぜん違うわ」
「どれどれ……ひぃぃ、ゼロの数が一個多いわ、初心者には贅沢よ!」
「麻衣さまのと、似ているのがいいのかしら。あれ、乗りやすかったし……でもそれじゃ、つまらないわよね、うーん」
「皐さん、どのくらいのを買えばいいんでしょうか?」
「そうだね……オススメなのは5・6万円くらいの車種かな」
「あとは……サイズさえキミの身体に合っていれば、見た目の好みで選んでいいと思うよ」
「えぇっ!? 見た目で選んでいいって……どういうことですか?」