「璃紗、目がキラキラしているわ。少し落ち着いたら」
「だって、まだ走り足りない感じがしているから……」
「そうね……一旦休憩して、また再開した方がいいかもね」
「ふふふっ……お預けをくらった子供みたいね、璃紗」
「もう、美夜の言い方……違う意味に聞こえるんだけど」
「ボクもバイトの休憩中に、よく使わせてもらっているんだよ」
「もしかして……このラテアートのカプチーノ、飲みたいのかしら?」
「そうよね。コーヒーなんて、無粋な泥水なんだから」
「前もそれ言ってたけど……なんのこだわりなのかしら?」
「ところで麻衣くん、さっきはどのコースを走ってきたんだい?」
「あのまま、人通りの少ないところを行って……街中に入る直前で、引き返してきました」
「ああ、最初なら、それで良いよ。徐々に慣れていけばいいし」
「ポタリングする上で、気を付けないといけないことって、ありますか?」
「そうだねぇ……だったら『自転車の交通ルール』は、頭に入れておいた方がいいね」
「自転車なんだから、歩道でも道路でも、好きなところをどこでも走っていいんじゃないの?」
「それは違うわ、玲緒。ルールを守らないと、事故に繋がるのよ」
「そういえば……最近よく、自転車の事故の話をニュースで見るかも」
「そうならないためにも、ちゃんと覚えておかないとね」
「まずは……『信号を守る』これは当然。小さな信号でも、夜中で人が居なくても絶対守ること」
「あとは『ながら運転』も禁止。傘をさしたり携帯をいじったり、通話したりも駄目」
「ああ、たまに『ヘッドフォンをして携帯をいじりながら赤信号を無視するママチャリ』を見かけるけど……」
「アレは車に轢かれるまで気付かないから、タイヤに巻き込まれて手足を持って行かれるらしいね。看護師の先輩に聞いたことがあるよ」
「あとは……ちょっと専門的なことになっちゃうけれど、自転車は道路交通法上『軽車両』になるの」
「だから歩道と車道の区別のある道路では『車道の左側を通行すること』が義務なのよ」
「それって『車道』の左端を走るってことですよね? ちょっと怖いかも……歩道を走っちゃダメなんですか?」
「道路交通法が改正されてから、自転車は車道通行が原則で、歩道通行は『車道を走るのが危険な状況のみ』とされているわ」
「美夜……何気に詳しいわね。でも、禁止ってことは……」
「もしも違反した場合は、3ヶ月以下の懲役、または5万円以下の罰金になるわね」
「まあ、車の交通ルールと一緒よ。自動車が逆走してきたり、歩道に入ってきたら、怖いでしょう?」
「だから違反したら、ペナルティーなのよ。実際はそこまで厳密ではないけれど、ルールを守るよう、心がけておいた方が良いわね」
「そうね……でも美夜、本当に詳しいわね。いつ勉強したの?」
「授業はちゃんと受けなくちゃダメでしょ! でもちょっと読んだだけで、スラスラ言えちゃうなんて……」
「璃紗、このわたくしを誰だと思っているの? 絶対黒髪天才美少女の、綾瀬美夜よ」
「ううううっ、言い方はバカみたいだけど、その通りだわ」
「ええ、わからないことがあったら、何でも聞いて下さい」
「一番大事なルールはわかったわ。でもやっぱり、車の通りの多いところだと、歩道を走りたくなるんだけど……」
「ある程度は仕方ない、とされているようね。でも人のいる歩道は、よーく注意しないと。歩行者優先だから」
「そうね……でも車は道路を走って、人は歩道を歩いて。自転車にも、自転車用の道があれば良いのに」
「あるわよ、璃紗。最近、全国的に『自転車レーン』が増えているのよ」
「主要な幹線道路沿いとかに増えてきたわね。そういうのは覚えておいて、積極的に活用するのが、効率良くポタリングするコツよ」
「自転車の守るべき、交通ルールに……歩道は注意して走って、自転車道は有効に使う、と」
「これで私も、自転車のルールに大分、詳しくなったわ!」
「璃紗……なんかその言い方、わざとらしいわよ。HOWTOものの典型的リアクションだし」
「でも美夜ちゃん、本当に色々知っているのね。こっちも楽でいいわ」
「ぶーぶーっ、なによ、綾瀬美夜のことばかり褒めて」
「どうしたの、玲緒? ひょっとして、美夜ちゃんに嫉妬しちゃってるの?」
「そそ、そんなこと、あるわけないじゃない! こう見えてワタシだって、色々と知ってるんだから」
「麻衣の、知らないことよ。えっと……そうよ、壁ドンとか」
(マンガや小説に出てくる、あれよね……でも知ってるって言ったら、美夜に『やってみせて』とか言われそうだし)
「ああ……そんな恥ずかしいこと、私には出来ないわ」
「うぅっ、しょうがないわねぇ……だったら1回だけね!」
「し、知らないわ、よく……でも多分『ワタシはここにいますよ』って、人に教えるためじゃない?」
「皐さん、あの表情……絶対、本当の意味を知っているんだわ」
「あら、だったら璃紗だって、本当は知ってるんじゃないの?」