「えっと……見た目で選んでいいって……」
プロローグ
「朝の習慣」
第1話
「自転車でダイエット!?」
第2話
「自転車って、辛くないですか?」
第3話
「脂肪燃焼ってどうするの?」
第4話
「レーパンはノーパンで」
第5話
「クロスバイクに乗ってみよう」
第6話
「すっごく軽い!?」
第7話
「電車?自転車?」
第8話
「はじめてのサイクルショップ」
第9話
「自転車のお値段って」
第10話
「自転車いろいろ」
第11話
「この子に決めました♪」
第12話
「おまちかねの納車日」
第13話
「自転車グッズあれこれ」
第14話
「ポタリングはじめました」
第15話
「自転車の交通ルールとは」
第16話
「車道の左側を走ってみよう」
第17話
「サイクリングロードを走ってみよう」
第18話
「脂肪燃焼のコツ」
第19話
「六夏パパのお下がりの自転車」
第20話
「超初心者、自転車に挑戦」
第21話
「ペダル、外しちゃいました」
第22話
「ちぇれすてって何ですか?」
第23話
「ミカ女自転車部」
第24話
「チームジャージを作ってみよう」
第25話
「ツンモード・デレモード」
第26話
「玲緒さまは、とっても○○いから……」
第27話
「久々の、専門用語!?」
第28話
「自転車部の部長と副部長」
第29話
「みんなで一緒に」
第30話
「荒川サイクリングロードを走ってみよう」
第31話
「特別な場所」
第32話
「自転車で、海まで」
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第9話「自転車のお値段って」
「5万前後のものなら、どれもそんなに違わないって事さ」
「それって、本当なんですか?」
「そのくらいの値段のものは、大抵の自転車会社が台湾の組み立て会社に作らせているんだよ」
「それって……質が悪いってことですか?」
「そうじゃないわ、璃紗ちゃん。安くて良いパーツってことよ」
「そう。台湾は人件費も安いし技術も高いから、昔からいろんな自転車メーカが業務委託をしてきたんだ」
「その技術の積み重ねのおかげで、現在の台湾製自転車のシェアは、もはや世界一の規模と言っても良いんじゃないかな」
「実際『Made in Italy』なんて書いてあっても、イタリアでやっているのは最後の組み立てだけ……なんて話もあるそうだよ」
「パソコンのパーツがほとんど台湾製なのと一緒ってワケね」
「美夜……なんでそんな事知ってるのよ……」
「ようするに、5万円前後のクロスバイクなら、どこのメーカーのものを選んでも、台湾製の同じような構成で組まれているって事になるね」
「もちろんもっとお高いクロスバイクを買うっていう手もあるんだけど……ダイエット目的なら必要ないと思うわ」
「そこに飾られている自転車も、20万円以上してますよね」
「スポーツサイクルの世界は、お値段と性能が比例してるからね。上を見れば本当にキリがないよ」
「とはいえ、大枚はたいて買ってはみたものの、じっさいに乗ってみたらスポーツとしての自転車に向いていなかった……なんて事もあるしね」
「そ、それはちょっと……(汗)」
「とにかく入門編として、5万円前後の自転車を勧めるよ。まずは『楽しめるかどうか』の適正を見極めた方が良いし、ね」
「そ、そうですよね」
「あとは……経験者の目で見れば、付いているパーツの性能差とかであれこれオススメすることも出来るけれど……」
「まずはフレームの色や形で好みのものを選んだ方が良いと思うよ。やっぱり、見た目の愛着は大事だしね」
「なるほど……じゃあこの価格帯からじっくり、自分好みのものを選びますね」
「璃紗好み……もしかして、いやまさか……あ、あの皐さん、聞いてもよろしいかしら?」
「なんだい、美夜くん」
「まさかとは思いますが……」
(美夜が自分から皐さんに質問だなんて、美夜もずいぶん私ほどじゃないけどテンション上がってきたのね)」
「うふふ♡」
「クロスバイクに、クマの絵がついてたりするのとか、ありませんよね?」
「クマ?」
「わぁああああああー、もう美夜、やめてよぉ」
「だって、璃紗の好みといえば、あのやる気のなくなる表情をした、だらっこクマ……」
「いくら私でも、それはさすがにないから!」
「タイヤやサドルを自分の好きな色にカスタムしたりはするけど、クマねぇ……」
「皐さん、冗談だけから、本気にしないでください」
「ステッカーを貼るとか……ああ、わかったよ、璃紗くん。キミのしたいこと」
(いいえ、絶対わかってないわよ)
「『痛車』ってやつを作りたいんだね。ボクもそれはさすがにしたことないけど、もしキミが望むのなら……」
「だ、大丈夫です、フツーのでいいです、フツーが一番です」
「まーい、痛車って何?」
「さ、さあ……知らないわ。璃紗ちゃん、なかなか変わった趣味なのね」
「もう、美夜も真面目に、自転車選びましょう」
「……今の言葉を聞いて、わたくしも安心したわ」
「もう……私は自分の趣味を人目につくところに晒す気はないの、知ってるでしょう?」
「ええ、でも想像してみて……璃紗」
「んっ?」
「璃紗の好きな、あの部屋にあるようなふわふわした薄いピンク色の車体」
「う、うん?」
「そこにプリントされた、たくさんのだるだるしたクマたち、それにまたがる璃紗」
「………………」
「さすがのわたくしでも引くわ」
「ううううっ……だったら、想像しないでよ」
「なんだか楽しそうね。気に入った自転車、見つかった?」
「今、見ているところで皐さんからアドバイスを頂きまして、ここらあたりのにしようかと」
「うん、いいかもね」
「ふーん、自転車って思ったより、安いのね」
「えぇっ、そうですか? 学生が買うにしては、大きい買い物だと思いますけど」
「だったら麻衣と買い物に行くスーパーに、もっと安い自転車あるわよ。それにしたら?」
「それは駄目」
「そうよ、ダメよ」
「きゃあああっ!」
「び、びっくりしたぁ……」
「驚かしてごめんね、璃紗ちゃん。玲緒が困ったことを言うから」
「なんでよぉ? 麻衣だって安いの好きじゃない。タイムセールとか」
「それはそうだけど……自転車はね、ちょっと違うのよ」
「麻衣くんの言う通りだよ。量販店やホームセンターなんかでは、1~2万円程度で買える車種もあるけど、それはおすすめできないなぁ」
「そういえば結構、お安く売ってますよね」
「確かにお値段は安いし、見た目も一緒っぽいんだけどね……ちゃんとしたサイクルメーカーのものに比べると、性能的に劣るものが多いのよ」
「そうなんですか?」
「ああいうのは『ルック車』って呼ばれていてね。その名の通り『見た目だけはスポーツサイクル』って言う感じかな」
「値段が安い分、素材やパーツもほぼママチャリと変わらないものが使われていてね」
「まぁ、そのほとんどが中国製で、ヘタをすると自転車協会の保証もなかったりするよ」
「粗製濫造品……って感じね」
「しかも軒下に駐めておくと、数ヶ月であちこち錆び始める。チェーンやボルトが真っ茶色になったりするんだ」
「そんな自転車じゃ、いつ壊れてもおかしくないよね」
「うわ……なんだかひどいですね……」
「だからそういう安物はダメ、絶対」
「わかった、玲緒?」
「わ、わかってるわよ。ワタシはそんな安物、最初っから買うわけないもの」
「逆に言えば、ちゃんとしたメーカーの車種だと、あっけなく錆びる様なパーツは使っていないし、フレームもしっかりしているよ」
「やっぱり、お値段と性能は比例するんですね…」
「その辺を踏まえても、やっぱり5万円前後のものがおすすめかな」
「はいっ!」
「そろそろ時間ね。さて、では次回予告……まさか、あのクマが本当に、璃紗の自転車に……」
「だから、それはないって言ってるでしょう!」