「さぁて、自転車の調節もできたし、今度こそ走りに……」
「今後、本格的にポタリングするなら、必要なものがあってね」
「自転車でする、散歩みたいなもののことよ。自転車ダイエットもポタリングの一種よ」
「……んっ、ポタポタ焼き? おせんべいもたまにはいいわね、ちょーだい」
「いただくわ……んんっ、甘じょっぱさがたまらない感じ~」
「い、いらないわよ……って、なんでそんなの持ってるのよぉ」
「倉庫から、荷物を取りに行ってるそうよ。実物を見ながら、説明してくれるみたいね」
「いいよ、大した量じゃないし。まずは身近なところから」
「人によっては私服っぽいものを選んだりもするけれど、ボクはやっぱり専用のジャージがいいかなぁ」
「そうね、Tシャツや普通のジャージでも良いけれど……やっぱり専用品はそれなりによく考えられて作られているわ」
「普通の衣類だと、走っている時に風をはらんで、空気抵抗になっちゃうの。だから専用品は身体にフィットしているものが多いわ」
「さて……サイクルジャージの特徴といえば、コレかな?」
「胸ポケットが無いかわりに、大きなポケットが付いているだろう?」
「前傾姿勢になるからね。胸ポケットだとすぐに落ちちゃうんだ」
「とはいえ、速さも控えめなポタリングなら、ユニシロとかのスポーツ向け衣類とかでも問題ないわよ♪」
「いいですね、買うものが特になくても、ユニシロってつい見ちゃいますから」
「女の子の楽しそうなお喋りは見ていて和むけど……解説の続き、いいかな?」
「下もジャージで良いかもしれないけど、お勧めなのはレーパンで……」
「おや、美夜くんはレーパンのこと、知っているのかい?」
「もちろんですっ! このお店にあるレーパンで、璃紗のサイズに合うものをすべてください」
「はい、お金に糸目は付けません! ……はぁはぁ♡」
「なんで息が荒いのよぉ! 皐さん、絶対美夜には売らないでください」
「また、安曇璃紗が騒ぎだしたわ……なんなのかしら、この子」
「ボクに任せて……美夜くん、璃紗くん、ウェアはもちろん大事だよ」
「わあっ、それが自転車用のヘルメットなんですか?」
「そういえば、速そうな自転車に乗ってる人ってこういうの、みんな被っていましたね」
「あーっ、なんかそれ、マンガで見たわ。でも髪の毛、ぐちゃぐちゃになりそう」
「アスファルトに頭を割られたくないなら、絶対に必要よ、玲緒」
「ううっ、怖いこと言わないでよ。でもワタシ、自転車乗らないから関係ないもん」
「基本中の基本だからよ。それにわたくしはすべてにおいて、璃紗の先を言行っているからよ」
「うううっ、自転車に先に興味を持ったのは、私なのに……」
「これは自転車用のグローブだよ。滑り止めの効果はもちろん、ハンドルからの振動で手が痺れるのを防ぐのにも一役買っているね」
「うん。風で目が乾燥したり、ゴミが入るのを防ぐんだ。もちろん紫外線をカットしたり、日光のギラつきを防いでもくれる」
「これは自転車専用品じゃなくても問題なし♪ スポーツ用のタイプなら、お好みで選んで良いと思うわ」
「確かに『街中でレーパンはちょっと恥ずかしい』って言う人も多いけれど、自転車に乗ってさえしまえばさほど気にならないと思うよ」
「衣類の抵抗が少ないから脚が回しやすく、ペダルを漕ぐのに理想的なんだ」
「そもそも、スポーツをイヤラシイ目で見るのもちょっとどうかと思うしね……」
「あ、イメージモデルはボクの愛しい優乃でお送りしているよ♡」
「股間の部分にはサドルの形をしたクッション状のパッドが付いていて、お尻の痛みを和らげてくれるんだ」
「初心者ならパッドが厚めのものをオススメするよ。『お尻の痛み』でリタイヤしちゃう人は案外多いんだ」
「そうそう、骨盤の違いがあるから、男女で違うパットが付いているんだ。買う時には注意してね」
「だ・か・ら、『ノーパンで履く』って言っても、股間の部分にはしっかりとパッドがあるから、透けたりしないし安心よ♪」
「まー、『それでもレーパンはイヤ』って言う場合は、ズボンの下に履くことを前提にした『インナーパンツ』っていうのがあるわ」
「パッドが付いているのを含めて形はレーパンと一緒だけど、通気性を良くする為に、メッシュ生地で出来てるのが違いね」
「最近は自転車女子向けに『サイクルスカート』というのも流行っているね」
「レーパンの上から履くんだけど……機能性と言うよりは、ファッション性重視、かな?」
「日焼け防止にアームカバーを組み合わせてみたり、ロングタイプの『レーシングタイツ』にする手もあるわ」
「あ、可愛い♪ って、そういえば『山ガール』の人たちも機能性タイツにスカートを合わせてますよね? テレビで見たんですけど」
「機能性タイツは便利だけど……でも腰回りのラインが丸見えなのはちょっと恥ずかしい……そんな乙女心に応えたアイテムね♪」
「最近だと、女子向けにファッション性を高めた可愛いデザインのウェアもあるわよ」
「やーん♪ フリルスカート可愛いです。こういうのならむしろ履いてみたいです~♡」
「うんうん……ああ、ボクの優乃はなんて可愛いんだろうねぇ♡」
「く……『璃紗ノーパン&レーパン計画』に思わぬ伏兵!? でもミニスカの璃紗も捨てがたいし……ぐぬぬ!」
「フロアポンプね、これも美夜ちゃんが持っているのなら、璃紗ちゃんは借りればいいんじゃないかしら」
「あら、普段通りよ。わたくしは常に、璃紗に勝っているもの」
「スポーツサイクルは軽いから、担いで持って行かれない様に、駐輪場の柱や柵とかにワイヤーで自転車をくくりつけるの」
「とはいえ……原則的には鍵に頼らずに、長時間の駐輪はしないことをオススメするよ」
「そして、これがライト。これが付いてないと、都や県の条例に引っかかっちゃうから注意してね」
「夜間にも安全に走るためには、絶対に必要だよ。種類も色々あるから、自分で好きなのを選んでみるといいね」
「すごい……ライトだけでこんなに種類があるんですね……」
「と……他に条例で必須とされている用品は、『ベルなどの警笛装置』『前後のブレーキ』『後ろの赤色反射板』になるね」
「ブレーキは当然としても、この辺は最初から自転車に付いてくる場合も多いかな」
「あ、赤色反射板はLEDで点灯するタイプもあるんだ。車からの視認性も高いから、夜走ることが多いならそっちも検討してね」
「つい『ちょっとどいて~』的に使っちゃいがちだけど、あれは原則『警笛鳴らせ』の標識の所でしか使っちゃいけないの」
「それ以外の場所では『危険を防止するためにやむを得ない場合には、ベルを鳴らすことができる』という感じだね」
「ふう……案外必要な用品や用具って多いのね……これじゃまるで──」
「本当に必要最低限のものを揃えるだけなら、そんなにかからないよ。少しづつ買い足してゆくのも手だしね」
「ヘルメットとグローブは……去年の旧モデルで良いなら、かなり安くできるよ」
「あと、ライトとLED付きの反射板、ワイヤー錠にパンクの修理セットはサービスで付けてあげる」
「あと、お買い上げから一年間は無料点検してあげる。とりあえず一ヶ月したら、点検に持って来てね」
「ヘルメットは被ったし、スカートの下にはしっかりレーパンも履いたし……よし、準備完了です♪」
「まだこの程度じゃ『ひのきのぼう』と『おなべのふた』くらいの装備だわ。やっぱり強力な装備を……スカート無しでレーパンを……ドキドキ」
「美夜ちゃん、どうしたの? 急に考え込んでしまって」
「今、わたくしも璃紗も、麻衣さまの様に用品一式を装備をしてますが……」
「えーとね、美夜ちゃん。それは大人の事情的なものが……」
「はいはいはい。じゃあ麻衣さま、さっさと走りに行きましょう! 行きましょう行きましょう!」