(あの後も、玲緒さまが壁をドンドン叩いたりして、店中の注目を浴びちゃったものね)
「皐さんがいつも利用しているお店なのに、お騒がせして……本当にすいません」
「ううん、全然かまわないよ。璃紗くんは本当に、几帳面なんだねぇ」
「あなたはいつも、本当に自由よね……うん、しばらく休んでいていいわ。わたし達はまた、走りに行くから」
「せっかく色々と覚えたことだし、今度は交通法規に気をつけながら、街中を走ってみましょうよ」
「玲緒ったら、もう……皐さん、玲緒のことよろしくお願いします」
「車の左側を、走行……これさえ間違わなかったら、大丈夫よね。ふふふっ、やっぱり気持ちいい」
「少しスピードを上げるけど、ついてこれなかったら声を掛けてね」
「ええ、だいぶ慣れてきたわ。もうちょっとスピードあげても、いいくらいよ」
「だってさっきまでは、初心者に合わせてゆっくり走っていたんでしょう? それに……」
(自転車でこんなスピードが出せるなんて、本当にすごい。この走り、すごく楽しくなってきちゃったんだもの)
「もっともっと、早く走りたい……美夜、私、先に行くからね」
「美夜を追い抜かしちゃった。私、かなり速いかも……ふふっ」
「いつも追いかけっこでは、美夜には負けっぱなしだけど、自転車に関しては私の方が、美夜より早く走れるんだわ……ああ、最高かも♡」
「2人とも、ここから車の量も多くなるから、気を付けた方が……あらっ、美夜ちゃんだけ? 璃紗ちゃんは??」
「あっ……信号待ちしている間に、かなり先に行っちゃったのね」
「もう……新しく与えられたおもちゃに夢中になる、子供みたいね」
「そうね。でもわたし、ちょっと行ってくるわ。美夜ちゃんはゆっくり、ついてきてね」
「はぁはぁ、はぁ……うわぁ、速いはやーい、ふふふっ♪」
「あっ、麻衣さま? 私、いつの間にか麻衣さままで追い抜かしていたんですか?」
「そうですか……はぁ、はぁ……どうりでいつまで経っても、お姿が見えないと思いました」
「ねぇ璃紗ちゃん、飛ばすのも良いけど、ダイエットの為なら『脂肪燃焼』がメインなのよ」
「あっ……そうでした。はぁはぁしない程度、でしたよね」
「そうよ、速いスピードで走るのも面白いけど、心拍数を一定にしないと」
「飛ばすのに夢中になって、すっかり忘れていまし──」
「今のママチャリ、前を見てなかったみたいね……大丈夫、璃紗ちゃん?」
「はい、平気です。このあたり、人通りも多いですね」
「街中は車や人に気を付けないといけないし、信号も多いから、なかなか自分のペースで走るのは難しいのよ」
「そんなことより、今ぶつかりそうになってなかったかしら? もし相手のナンバー覚えてたら教えて! 璃紗を危ない目に遭わせて……許せないわ!」
「だ、大丈夫よ。それに自転車だからナンバーとかないし」
「そう……だったらあそこにある、防犯カメラの映像を……」
「いいえ、この綾瀬美夜に、無理なことなんてないわ」
「ここのお店、全然お客さんこないじゃない。これでやっていけるのかしら?」
「一応、他にもお客さまが来ていて、伯父がその相手をしているという……」
「璃紗ちゃんに偉そうに言っちゃったけど、こう信号や車が多いと、心拍数を一定にしての走行は難しいわね」
「街中での走りは、わかってきましたけど。だったら今から、このあたり一帯を封鎖しましょうか?」
「もう、しなくていいから! なんか美夜だったら、本当にやっちゃいそうで怖いわ」
「……あっ、そうだわ。明日は2人とも、予定空いている?」
「予定は特にはありません。美夜もお仕事、ないわよね?」
「ええ。日曜日の朝は璃紗とゆーっくり過ごしたいから、仕事は入れていないわ」
「ふふっ、本当に仲良しね、2人は。それじゃ明日の日曜日、皇居のサイクリングコースを走ってみない?」