「ああ。前に自転車に乗れない人の教室を、パレスサイクリングでやっているの見かけてね。こうすると、練習が簡単だっていうのを知ったんだよ」
「このまま、またがって、足で地面を蹴って……進んでみるんだ。危なかったらすぐ、足をつけばいいよ」
「なるほど……これで最初に、バランスを取る練習をするんですね」
「これだと後ろで支えてもらって、いきなりペダルをこぐより怖くないかも」
「沙雪さん、声が裏返ってますよ。やっぱり、怖いですか?」
「い、いいえ……六夏さんと一緒に自転車に乗るためです! 私、頑張ります」
「ふふふっ、六夏と沙雪さん、2人の世界を作っちゃってるわね」
「もぐもぐ……このマカロン、なかなか美味しいわね」
「そして見事に、その世界を壊す、玲緒……まぁ、それはそれで可愛いけど。ほら口元にマカロンのかけらついてるわよ」
「玲緒さまと麻衣さまは、見ていて微笑ましいわね、美夜」
「ちょ、ちょっと美夜……目が血走っているけど、どうしたの?」
「わたくし達もここで、皆さんのように、仲の良さをアピールするべきじゃないかしりゃ!?」
「うーん、そうするとボクだけ、仲間はずれになってしまうよ。ここに愛しの優乃はいないわけだし」
「まあでも、今日は傍観者を決めるとするよ。さあ、璃紗くんたちも大いにイチャつきたまえ」
「ありがとうございます♡ さあ璃紗、お許しも出たことだし♡♡」
「し、しませんっ! それより今は、沙雪さんの練習を進めるのが先でしょう!」
「あっ……そうでした、すいません。六夏さんの素敵な瞳に、思わず吸い寄せられてしまいました」
「あっ、そうだ。念には念を入れて、これをつけた方がいいよ」
「肘や膝用のパッドですよ。これをつけていれば、もし転んでも痛くありませんよ」
「地面にこすれても、簡単に壊れたりしないから、安心だよ」
「ふふふっ、六夏ったら本当に、沙雪さんのナイトみたいね」
「これで、こうして……最後にここを止めて。できました、沙雪さん」
「足を離すのは、最初はほんの少しでいいからね。焦らずにゆっくり」
「……はい、平気です。この肘と膝のパッドのおかげで、ぜんぜん痛くありません」
「いいえ、こんなところでくじけるわけにはいきません」
「沙雪さん、いい感じですよ。大分慣れてきましたね」
「最初の頃と比べると、ふらつきもなくなってきたみたいね」
「はい、コツがつかめてきたみたいです……忘れないうちにもう一度、やってみます……」
「あっ……沙雪さん、すごいや。バランスちゃんと取れてますよ」
「うんうん、ブラボー♪ これでバランスのとり方、覚えてきたみたいだね」
「じゃあそろそろ、ペダルをはめて、やってみようか」
「いよいよだね。さっきの感じを忘れずに、踏み出してごらん」
「沙雪くん、もう少し力を抜いて。下は見ずに前を見るんだ」
「自転車は体で覚えるものだから、あまり頭の中で色々、考えない方がいいわよ」
「何もかんがえないで、力を抜いて、行きます………………ああっ」
「バランスは取れてるから、後はペダルを踏む時、怖からずにいけば……きっと乗れるよ」
「はぁはぁ、はぁ……わ、私、乗れました! 自転車に乗れました」
「ふふふっっ、2人とも感激のあまり、抱き合っているね」
「見てるこっちも、すごく感動的だったわね、玲緒?」
「あ、ありがとうございました……ぐす、ぐす……ぅぅっ」