「どれどれ……ふーん、いかにも璃紗が好きそうね、ふふふっ」
「だって選んでいるときから、目が輝いていたもの。これにすると思ったわ」
「そうね、璃紗ちゃんが……というか女の子の好きそうな車種よね、これって」
「ああ、「FREETA(フリータ)」だね。これは台湾メーカーの最大手『ジャイアンテ』の女性向けモデルなんだ」
「やっぱり……形が可愛いっていうか、普段の買い物にも使えそうですよね。それに色もすごくいいですし」
「気に入ったのがあって良かったよ。じゃあ色は、このピンクでいいのかい?」
「ちょ、ちょっと近いちかい、顔が近いですっ、皐さん」
「キミがこのバイクに乗っているところを想像したら、まるで妖精さんのように見えるだろうねぇ」
「あら、璃紗はそういうの好きなんじゃないかしら? 妖精さんっぽいし」
「もう、からかわないで……私なんかより、玲緒さまの方がよっぽど妖精みたいですよ」
「うーん、そうね……妖精と言うより、いたずら好きのピクシーかもね」
「あら、玲緒からのお約束の突っ込みが入らなところを見ると、マンガに夢中なようね」
「……ねぇ、このシンカイって人が食べてるお菓子、美味しいのかしら?」
「読んでいて気になるところが、常人とは違うみたいですね……さすが玲緒さま」
「ちょっと美夜、その言い方、嫌味にしか聞こえないわよ」
「まさか……璃紗は気にしすぎよ。わたくしは感心しているだけなんだから」
「なんか美夜といると、ひやひやさせられっぱなしね。人のことより自分のことでしょう、美夜」
「最初から? もしかして美夜、前もってどんな自転車がいいか、調べてきたのね?」
「そこまでは、いくらわたくしでもしないわ。わたくしが決めていたのは……」
「皐さん、わたくしも璃紗と同じ自転車、お願いします」
「おやおや、美夜くんは恋人とお揃いか。それは素敵だね」
「色はどれにする? これもお揃いで、ピンクを……」
「いいえ、ピンクは恥ずかしいから止めます。そうね……」
「ホワイトにしようかしら。きっとわたくしの黒髪に、よく映えるわ」
「わかった。じゃあ2人とも同じ車種で、色はピンクとホワイトだね」
「こちらこそ。皐さんも麻衣さまも、アドバイスありがとうございました」
(あら……美夜ったら、別の自転車を眺めているわ。もしかして、他に気になるのがあったのかしら?)
「2人とも、購入の手続きをするから、こっち来てくれるかい?」
「納車は大体、一週間くらいかかりそうだよ。あと、お見積もりの件だけど……」
「璃紗ちゃん、お金の方大丈夫? 結構な値段でしょう」
「大丈夫です。麻衣さまからお聞きしていた予算の範疇でしたし♪」
「もう……これくらいだったら、わたくしが出してあげるのに」
「いいえ。もし値段で選んだのなら、わたくしのお金でもっと高級な自転車に変えることも……」
「いいの、本当にこれが気に入ってるのよ。美夜こそさっき、別の自転車を見ていたじゃない。いいの?」
「いいのよ。あれは璃紗用に、もっと良いのがないのか見ていたのよ」
(美夜も皐さんの説明聞いてたクセに、どうしても高級な自転車を私に選ばせたいみたいね)
「美夜の気持ちは嬉しいけれど、あくまで自分の力でやってみたいのよ」
(でもまだ、ちょっと顔が不満げなのよね……何故かしら)
「読み終わったわ、買い物済んだのなら、もう帰ろうよぉ」
「はいはい。2人が買ってるの見て、玲緒も欲しくなったりは……」
「ちょっと待ちなさい、玲緒! 美夜ちゃん、璃紗ちゃん、じゃあまた学校でね……ごきげんよう」
「待ちなさい、玲緒……なによ、そのフラフラして歩き方は?」
「ダンシングよ、麻衣知らないの? ピークスパイダー!」
「そのようね……じゃあ、わたくし達も帰りましょうか」
「そろそろ暗くなりそうだから、2人とも気をつけて。お買い上げ、ありがとうございました」
「こちらこそ、色々教えて頂き、ありがとうございました」
「ええ、とっても楽しみだわ。納車日が待ち遠しくて」
「璃紗のことだから、またその自転車に名前、つけるんでしょう?」
(とか言いながら、こっそり可愛い名前つけてあげたいなぁって思っているのよね)
「美夜は、なんでもお見通しなんだから……気をつけなくちゃ」