「荒川サイクリング中、麻衣さまがショックを受けて固まってしまったので、ここ『堀切駅』の近くで、一旦休憩です」
「何故、麻衣さまがそれほどショックを受けたかは、前回の『ゆりりん』を見てね♡」
「あぅぅ……信じられないわ、ジェネレーションギャップありすぎよぉ……僕は死にましぇ~ん! しくしく」
「ま、麻衣様、私今度、ブルーレイで『金髪先生』を買って、見てみます!」
「わ、ワタシも沙雪さんと一緒に見ますから、ですからそんなに……」
「いーのいーの! 麻衣はいつも怒ってばかりだから、たまには落ち込んだ方が……んぐ、ごくごく、ごきゅっ」
「ちょ、ちょっと玲緒っ! なんでジュースなんて飲んでるのよ、このおバカっ!!」
「だって、休憩中だし。そこの駅の自販機で売ってたから……」
「って、甘いの飲んだら、脂肪燃焼しなくなっちゃうじゃない、もう……って、2本も飲んでるし」
「ごきゅごきゅ、ぷはぁ~……だってだって、ちょー喉が乾いたんだもん」
「はぁ……ちゃんとみんなみたいに、お水を飲みなさいよね、まったく」
「麻衣さま、許してあげて下さい。あれだけ頑張ったんですもの、玲緒さまは」
「じゃあワタシが甘いジュースを飲んでも、なーんの問題もナシって事よね」
「でも、ジュース3本目は飲みすぎよっ!! もう……まあ、玲緒には元々、燃やすほどの脂肪もないから、いいのかしら」
「あら、答えはそのまったいらなお胸に聞いてみれば?」
「むむむむむぅぅ………………麻衣のばかぁ!! ヤケ飲みしてやるぅ、ごくごくごく……」
「でも、登り坂の時は心拍数がぐんぐん上がっていったけど……そうしたらもう脂肪燃焼しなくなっちゃうのかしら?」
「そのまま高い心拍数を維持し続ければ、有酸素運動ではなく、無酸素運動になってしまうけれど──」
「こうしてちょっと足を休めれば、すぐに心拍数は下がるだろう? それでまた、有酸素運動は維持されるから大丈夫だよ」
「ええ、でも登り坂以外は運動としては軽い感じよね。それに何度か休憩が入るから、無理なく進んでいる感じはするわ」
「最初ってこともあるけど、ちょっと休憩、入れすぎたかしら? 初心者の沙雪ちゃんと玲緒がいるから……」
「初心者は、このくらい休憩した方が良いですよ。まあ、わたくしは一切休憩なしでも、行けそうですけれど」
「ああ、でも優菜さんならきっと、休みもとらずに、微笑みながらずっと走ってそうよね」
「確かに……もしメンバーに優菜さまがいたら、そうかも知れませんね」
「優菜さまって、そんなに運動神経良いんですか? 今度一緒に走ってみたいなぁー」
「あらあら、六夏さんが優菜さまに張り合うには、10億年ばかり早いと思うけれど」
「優菜さまのすごさは、そのうち六夏も理解すると思うわよ」
「ここからは墨田区に入るわ。もう半分は過ぎたけれど、ここからも何度か休憩挟んでいくわね」
「ワタシはジュースで完全復活よ! ガンガン走れるわ」
「もう疲れているじゃない、玲緒は……ここからは墨田区よ。だいぶ下町らしくなってきたわね」
「あ! あそこでもサッカーやってる。楽しそうだなぁ♪」
「『四ツ木橋』ね。すぐ先には、『新四ツ木橋』、『木根川橋』と続くわ」
「あっ! ちょっと麻衣! 砂利道になってるわよ!?」
「あー、何故かここは、舗装してくれないのよね~ なんでかしら?」
「残念ながらまだ半分ちょっとよ、玲緒? みんな、滑らないように、ゆっくりと進みましょう」
「さらにタイヤの細いロードバイクには、ちょっと辛い感じだよ」
「でもこれで、もうこの先には未舗装路はないから安心してね」
「お尻をちょっと上げて抜重すると、振動を吸収出来るよ」
「綺麗ですね。都内のこんな身近なところに……なんだか新鮮な発見です♪」
「ふふっ、沙雪さんが楽しそうで、本当によかったです」
「あ! スカイツリーがあんなに近くに♪ でも土手のむこうだから、上の方しか見えない~」
「うふふ、今度また、自転車でスカイツリーまで行ってみましょうか、璃紗」
「あれは『かつしかハープ橋』ね。その下に見えるのが、ここから荒川と併走する、中川の『上平井水門』よ」
「ふふん、さっきの岩淵水門は10m幅のゲートが3門だけど、上平井水門は30m幅のゲートが4門あるのよ」
「120m!? すごい……って、なんで美夜が得意がってるのよ」
「じゃあ、ちょっと先にある『平井大橋』のあたりで休憩にしましょう」
「このあたりは、墨田区を通り過ぎて、江戸川区に入っているわ」
「さっき通ったのが『小松川橋』で、あの先にあるのが首都高の『荒川大橋』だね」
「これは『荒川ロックゲート』よ。2つの水門で、旧中川との水位を調整して、行き来できるようにしているの」
「それって、どっかで聞いた事があるような……あっ、スエズ運河?」
「パナマ運河ね。それと似たような仕組みよ。水位の調整には20分くらいかかるらしいわ」
「そうそう、ロックゲートはすごいのよ。でももっとすごいのは、ここって昇れちゃうのよ。6階からの見晴らしは格別よ」
「どう? 良い景色でしょう♪ 向こうに、さっき通った『船堀橋』が見えるわ」
「でも本当に、人が小さく見えるね。結構高いんですね」
「素敵な見晴らしです……一緒に来て良かったです、六夏さん」
「何よ、こんなところでも雰囲気出しちゃって……璃紗、わたくし達も……ね?」
「みみみ、美夜っ!? ダメよ、こんなところで唇、近づけちゃ……あぁん、何するのぉ」
「何って……璃紗にクイズを出すだけよ。ほら、川の左右って『右岸』と『左岸』って言うじゃない。でもどっちが右岸で、どっちが左岸だと思う?」
「下流の河口側を見て、右が右岸、左が左岸、でしょう?」
「そっか、そうなんだ……そういう豆知識を知ってる美夜や麻衣さまって、本当にすごいわ」
「そんなこと、ないわよ。たまたまで……あら、ところで玲緒は? またジュースでも買いに行ったんじゃ!?」
「玲緒さまなら、そこでコソコソ、何かしていますよ」
「ちょっと玲緒。どうしてこんなところで写メ、撮っているの?」
「エリスに送ったのよ。だってエリスったら『えーっ、玲緒って自転車乗れるの?』なんて、失礼なことを言うんだもの」
「で、でも玲緒さま、すごい頑張っているじゃないですか」
「でもどうせ写メするなら、ゴールしたところの写真が良いんじゃない?」
「だめ。途中でも撮らないと、車で先まわりして、ゴールの時だけそこにいたみたいに言われそうじゃない!」
「だからこんな道中で写真を撮るのが、本当っぽいのよ」
「だめぇ、言わないとくすぐっちゃうからー、こちょこちょ」
「ちょ、あぁん♡ やめてよぉ、麻衣……余計に疲れるじゃない……うわぁん」
「言う、言うって! 走るの面倒だから、最初っから車でゴールまで行こうかって、昨日まで考えてたの」
「でもサイクリングロードって、タクシー拾えないし、麻衣たちと並んで走らないといけないから、無理だし」
「でも麻衣さま、最初はどうであれ、玲緒さま、ちゃんと走っているじゃないですか」
「玲緒さま、初めてのサイクリングロード楽しくなかったですか? 私はすごく楽しいです」
「ワタシも初めて走る道って、とってもワクワクします」
「そうね……まさに自転車だから、これる場所ね。特別な感じはするわ」
「こんな素敵な体験が出来るなんて、自転車だから……なんですよね」
「そうだったわね。どう、玲緒。ここまでの道のり、楽しくなかった? ただ疲れるだけ?」
「それが、玲緒らしいのかしらね。じゃあそろそろ休憩は終わりにしましょうか」
「左岸側が清新町、右岸側が砂町、そこを繋ぐ橋だから『清砂大橋』って言うのよ」
「橋の名前って、そのパターンが多そうですね……って、すごい!?」
「じゃあ、ちょっと休憩してゆっくり見ていきましょうか」
「そこの坂を上がって土手を超えたら、清砂大橋を渡るわ」
「さぁ! いよいよ、クライマックスよ! ゴールは近いわ、沙雪ちゃん、玲緒!」
「清砂大橋は、そこの歩道僑を上がっていくわよ。ここは歩行者も使うから、押して歩きましょう」
「わぁ、橋の上から見ると、こんなに川が広く見えるのね」
「もう海もかなり近いからね。ここの川幅は大体、800mくらいあるらしいわよ。中川も平行で流れているし」
「もう、橋も長すぎよぉ……渡るだけで一苦労でしょ……はぁ、はぁ……」
「頑張りましょう、玲緒さま……あら、橋を渡ったら道の色が変わりましたね」
「本当だ。海に向かってずっと、赤い道が続いてますね」
「ここは『ふれあいロード』っていうのよ。お散歩している人も多いから、歩行者優先。注意していきましょう」
「橋のこっちはまた江戸川区よ。さぁ、ゴールの葛西臨海公園までもう少し、気合入れていこ~!!」
「き、気合はもう、出しつくしたわよぉ……ぽた、ぽた……ぽたぁ!!」