「皐さん、今日もお付き合いしてもらって、ありがとうございます。学校の方も忙しいのに……」
「そう言ってもらえると助かります。まさかミカ女で、自転車に興味を持ってくれる子がいるなんて、わたしも思わなくて……ビックリです」
「クラスメイトでは、自転車に乗りそうな子とかいないのかい?」
「はい。みんな車で送り迎えが当たり前の、そんな世界ですから」
「だから後輩2人とこうしていられて、一番嬉しいのはわたしだったりするんです」
「ふむふむ……おっと、噂をすれば、なんとやらだよ」
「ごきげんよう……うんうん、女子校らしい挨拶だねぇ♪」
「昨日調べたんですけど、ここ『パレスサイクリングコース』って言うんですね」
「ええ、皇居沿いの内堀通りの一部を自転車用に解放して、サイクリングロードにしているの」
「スゴイですよね……車を進入禁止にして、車道の真ん中を堂々と走れるなんて、なんだかちょっと贅沢な気分です♪」
「うふふ、そうよね♪ 毎週日曜日の10時から16時まで解放しているから、ゆっくり楽しめるわ」
「コースは今ボクたちが居るここ、地下鉄『竹橋駅』のあたりから、日比谷公園の手前までの往復3.4キロになるよ」
「ただし、雨の日や大きなイベントのある日は中止になるから注意してね」
「あの……誰でも走って良いんですか? あ、あとお金とかは……」
「無料だし、受付とかも不要よ。もちろん自転車も自分のを持ち込んでオッケー♪」
「すごい……車も人も気にせず走れるなんて、気持ち良さそうですね♪」
「だからって、スピードの出しすぎには注意が必要よ、璃紗」
「むうっ、わかってるわよ。昨日は少しばかり、調子に乘っちゃっただけよ」
「もう、負けず嫌いの美夜なら、すぐに食い付いてくると思ったのに」
「璃紗に追いかけられるのは好きだけど、追いかけるのはちょっとね……」
「あのね、私だって好きで追いかけているわけじゃないわ。普段は美夜が授業をサボるからでしょう?」
「あら、どうかしら……わたくしに会いたくて、追いかけているんじゃないの、璃紗は?」
「だめだわ、このままじゃ美夜のペースに巻き込まれて……あら、麻衣さま」
「どうしたの、璃紗ちゃん。わたしにも美夜ちゃんとのおのろけ、聞いて欲しいの?」
「ちち、違いますっ! 今日は玲緒さまの姿が見えないので……」
「れーおー、なんであなたはまた、ムダな出費を……」
「いいじゃない、別に。わざわざここまで出向いてあげたんだから。本当は来る気なんか、全然なかったんだから」
「麻衣がワタシのゴハン、用意してなかったからよ!」
「結局、玲緒くんはボクたちと一緒に過ごしたかったんだよね?」
「ごねる玲緒は置いておいて、そろそろ走る準備しましょうか」
「昨日も言ったけど、ダイエットにはスピードはたいした意味は無いのよ」
「あくまで心拍数の維持と、その持続時間が大事になってくるの」
「じゃあ今日は心拍計を使って、自分で心拍数をコントロールしてみようか」
「心拍計を付けていると、自分の心拍をリアルタイムで知ることが出来るんだ。はい、これがそのセンサーだよ」
「胸帯って言って、この機械の部分をみぞおちに当てるようにして、ベルトを胸に巻くんだ。そしてこれがレシーバーだよ」
「レシーバー……受信機? 腕時計の形をしてるんですね」
「そう、これは腕時計タイプだね。ジョギングとかでも使えるかな」
「他にもスマホで受信したり、サイクルコンピューター……自転車用のスピードメーターに表示出来るタイプもあるんだ」
「じゃあ、あそこにお手洗いがあるから、そこでセンサーを付けて来てね」
「わ……数字が増えたり減ったりします……面白~い♪」
「その数字が、璃紗ちゃんの心拍数になるの。今は100くらいの数字じゃないかしら?」
「そうですね……歩いてる時はもう少し高かったけど、立ち止まったらすっと数字が下がった感じです」
「そうやってチェックしつつ、脂肪燃焼向けの心拍数を維持するのが今回の目的だよ」
「ある程度馴れてくると、心拍計が無くても感覚で判るようになるんだけど……それまでは使った方が無難ね」
「今日はギアを軽くして、走ってみましょう。そうすることによってスピードは遅くはなるけれど、楽に走ることができるはずよ」
「一定の力で、一定のクランクの回転で走るのが、効率的で疲れにくい……本当に、本に書いてあった通りね」
「相変わらず美夜ちゃんは、しっかり調べてきているのね」
「ペダルが付いている棒状の部品のことよ。璃紗は勉強家なのに、自転車のことはあまり調べてないのね」
「うううっ……だって自転車のお手入れだけで、精一杯だったんだもの」
「璃紗ったら、この綺麗なピンク色を維持するために、昨日もずっと磨いていたんですよ」
「まあ、それだけ自分の自転車を大事にしているってことは、良いと思うわよ」
「それじゃ、ここから先は心拍数に気をつけながら、自分のペースで走りましょうか」
「悪くないです。思ったより、心拍数も維持出できていますし」
「自転車は、心拍数のコントロールが簡単なのも、魅力のひとつね」
「確かにコレ……ハァハァするちょっと手前って感じですね」
「ふふっ、これなら長く続けられそうです、自転車ダイエット。美夜もそうでしょ?」
「そんなまぶしい笑顔を見せられたら、わたくし……はぁ、はぁ、はぁ」
「み、美夜ちゃん、息が荒いわよ。心拍がコントロールできていないんじゃない?」
「はい、もう心拍数が上がりっぱなしで……あぁん、素敵な璃紗に今すぐ、抱きつきたぁ~い♡♡」
「ええええっ!? やぁん、こんなところでダメぇぇっ!?」