「今回はわたくしたち、関係ないんだから……少しくらい遅れても、いいんじゃないかしら」
「それより、璃紗……昨日の夜の、続きを…………ふぅ~♡」
「きゃん♡ ちょ、ちょっと美夜、こんな朝から、耳元に息を吹きかけたり……やぁん、触るのもダメっ!!」
「朝はノリが悪いのね、璃紗……じゃあ、また今夜ね♡」
「も、もう、油断も隙もないんだから。とにかく、早く見に行きましょう、沙雪さんの練習を」
「他人じゃないわ。沙雪さんが自転車に乗れるようになったら、仲間になるんだから」
「だからって、練習まで付き合わなくても……たまには2人で、デートでもしない? なんなら自転車デートでもいいわよ♡」
「今更……一緒に暮らしているんだし、毎日がデートみたいなものじゃないの、私たちは」
「そう言われると、身も蓋もないわね……でもわたくしは、日常にはない刺激が欲しいのよ、時にはね」
「またそういうのを……ああっ、見て! もうすぐ約束の時間になってしまうわ!」
「それもダメなの? じゃあわたくし、行くのやめるわ」
「もう……もうもうっ、仕方ないわね。繋ぐわよ、繋ぐから!」
「リサ姉と美夜さま、手をつないでいる……本当に仲が良いよね、沙雪さん」
「沙雪さん、聞いてる? もしかして、緊張しているの?」
「い、いいえ……そんなこと、ありましぇぇん……ぶるるっ」
「自転車なんて、あっという間に乗れるようになるのに……」
「あら、そうかしら? 乗れるようになるまで、最初は怖くなかった?」
「いいえ。わたくしは補助輪を外したら、すぐに乗れたわ」
「はぁ~、美夜って本当に、なんでもすぐ出来ちゃうのね」
「優秀な麻衣さまや璃紗さまでも、自転車でご苦労をなさったのですね……それでは私ごときが、すぐに乗れるようになんてありえません……」
「そうだよ、大船に乗ったつもりでいてよ。それではそろそろ、始めさせてもらうよ」
「では……『超・初心者向け自転車教室』を開催します」
「超初心者、ね。だったら玲緒、あなたもついでに教えてもらったら?」
「ふーんだ、ワタシはここでお菓子を食べているから、いいもん」
「ちょっと安曇璃紗、このワタシをおまけ扱いするつもり?」
「実際におまけじゃない。一緒に参加すれば、楽しいのに」
「じゃあ、まず初めに沙雪くん、一度でも自転車に乗ったことはあるかい?」
「実は、お恥ずかしい話ですが、一度だけ……幼少の頃、お友達のを借りて乗ってみたのですが……」
「はい。後ろから支えてもらいましたが、あっという間にふらつき、転んでしまって……それ以来、怖くて乗っていないんです」
「そうだね。それを繰り返して、乗れるようになる人もいるけれど、何回も転ぶと怖いよね。特に女子は」
「そんなことないですよ、沙雪さん! ワタシだって、最初は………………ちょこっと、怖かったし」
「昔、六夏の自転車の練習に付き合ったことがあったけれど……」
「昔……わたくしの知らない、璃紗と六夏さんの甘い想い出……くっ」
「甘くなんてないわ、小学生の頃よ! 子供なのに六夏、転んでも平気そうだったわよね」
「そうね。むしろ『まだまだワタシは、いけるんだぁ!』って、スポ根マンガのヒロインみたいだったわ」
「わぁぁ、リサ姉っ!! 昔の話は恥ずかしいからやめてよ、沙雪さんも聞いているんだし」
「あら、緊張しまくっていた沙雪ちゃんが、笑っているわ。グッジョブね、六夏ちゃん」
「まあ『転ぶ』っていうのは、誰もが一度は通る道だよ。だけど今は、もっと簡単に自転車に乗れるようになる方法があるんだ」
「えっ……そのようなものが、本当にあるのでしょうか?」
「沙雪くんには、最初はこれで練習してもらおうかな」
「ずいぶん小さなシティサイクルですね。玲緒でもすぐに乗れちゃいそう」
「いや、玲緒さまどころか……これって、子供用ですよね?」
「沙雪くん、こがなくていいから、足をつけたまま、またがってみてごらん」
「足は地面にべったりついているね。これならいざという時、地面に足をつければ倒れないよね?」
「うーん……でもペダルを踏んで漕ぎ始めたら、慣れていない人はやっぱり
、転んじゃう気が……」
「えぇっ!? さ、皐さん、何をしているんですか?」
「うーん、ワタシの出番、少ないわね……ぱくぱく、もぐもぐ」