「地下鉄の『赤羽岩淵駅』の近くよ。そのちょっと向こうには『JR赤羽駅』もあるから、輪行するならそのどちらかがお勧めね」
「ちなみに今いるこの橋は、『新荒川大橋』よ。荒川と隣に流れる新河岸川を同時に超えているわ」
「今日はここ、北区の新荒川大橋から、江戸川区の葛西臨海公園までの、約26キロになりま~す」
「にっ……26キロぉ!? ……って、どれくらい?」
「電車の駅で言えば、新橋から横浜くらいですよ、玲緒さま♡」
「そこが、わりと簡単に行けちゃうんだな~ そう、クロスバイクならね!」
「ええ、この荒川サイクリングロードなら、道もほぼ平らで信号も無いし、休憩を何度か挟んでも……1時間半ってトコかしら」
「じゃあまずは、車止めからサイクリングロードに自転車を入れましょう」
「よいしょ、よいしょ……ああ、面倒! こんな邪魔なの、いらないのに」
「これがないと、サイクリングロードに車やオートバイが入ってきちゃうでしょ」
「この土手、見晴らしよいですね。この道を走っていくのですか?」
「違うわ、沙雪ちゃん。ほら、土手の下に広い道が見えるでしょう。あれが『荒川サイクリングロード』よ」
「でもしばらくは、この土手の上を走っていきましょうか」
「高いところを走るの、気持ちいい~♪ ずっと土手の上でも良いかも」
「そうね~♪ でも、土手の上は道路や線路で分断されちゃうから、どうしても河川敷の方がメインになっちゃうけどね」
「向こうの青いのが、現役で活躍している岩淵水門よ。そして手前に見える、赤いのが旧岩淵水門ね」
「赤門の方は、水門としてはもう使われていなくて、メモリアル的に残してあるのよ」
「美夜、相変わらずの予習力……荒川のガイドさんになれそうね」
「本当ね。でもあの旧荒川水門は、デッキもあって見晴らしがすごくいいのよ」
「そうなんだ……じゃあ今度、一緒にきましょうか、沙雪さん」
「それでね、璃紗。現役の岩淵水門は、隅田川の起点になっているのよ」
「水害の多かった昔の荒川が今の隅田川で、水を逃がすために作られた新しい川が、今の荒川なんでしょ?」
「だから、荒川区には荒川は流れてないんだ。今は隅田川になっちゃったからね」
「荒川の正式名称は『荒川放水路』よ。近くにヘリポートもあるから、またいつでも来れるわね、璃紗♡」
「ヘリポートがあるなら、確かにいつでも来れますね、美夜さま」
「ななっ!? 美夜さまも、沙雪さんも、何言ってるんですか!?」
「六夏、この2人は住む世界が違うのよ。私たち庶民とは感覚が違うのよ……はぁ~」
「はいはい、楽しい漫才はこの辺にして。いよいよ土手を下りて、サイクリングロードに入るわよ」
「ワタシが一番乗りよ! ひゃっはぁ~、気持ちいいっ♪」
「ちょっと玲緒、先に一人で行っちゃダメよ、待ちなさーい!」
「まったく……ペースも考えず、最初に飛ばしすぎるからバテちゃうのよ、玲緒」
「悪いけど、わたし玲緒の前に着くから、4人はそのままのペースで走ってね」
「玲緒さま、最後まで頑張れば、冷たくて美味しいアイスですよ」
「わかってるわよっ!! はぁ、はぁ……ぽたぽた、ぽたぽたやきっ!!」
「ポタリングだからよ、ポタポタ、気合入れてるのよっ!」
「ふふっ、おかしな玲緒。でも結構、進んで来たわよ。もうこのあたりは足立区のあたりね」
「さっきくぐったのが『鹿浜橋』で、先に見えているのが『五色桜大橋』よ。高速道路で、ちょっと珍しい2階建ての橋なの」
「ネーミングセンス、ちょっと厨二的ですね。璃紗の好きそうなネーミングだわ」
「五色の桜、ですか……本当にあるのなら、見てみたいですね」
「その奥に見えるのが『江北橋』。こっちは一般道で、橋の右側に進むとJR王子駅に出るわ」
「なんか、橋ばっかり……はぁ、はぁ……美味しいお店はないの?」
「いーっぱいありますよ、玲緒さま。まずはフレンチトーストで有名な……」
「はぁ、はぁ……そういうイジワルは止めて、美夜ーっ!!」
「まあ荒川サイクリングロードは、見える範囲では橋くらいしかランドマークがないからね」
「あっ! あの先に見えるの……スカイツリーじゃないですか!?」
「そうね、スカイツリーはこの先でもっと近づくわよ♪」
「ああ……なんてチョロいの、璃紗。でも……カワイイ♪」
「他は川と団地ばっかりですけど、見晴らし良いからワタシは好きですよ」
「ダメよ、璃紗。愛しい璃紗とは高層マンションの最上階に、わたくし達のあまーい愛の住処を……んふっ♡」
「そういう話、今は止めて、もう……麻衣さま、あの見えてきた橋に走っている電車はなんですか?」
「日暮里舎人(にっぽりとねり)ライナーよ。下を走っているのは一般道『尾久橋通り』。橋の名前は『扇大橋』ね」
「ふふっ、また美夜ちゃんのガイドモードが始まったわね」
「荒川の向こう岸に沿ってずっと走っている道路は首都高中央環状線よ。更には川口線も走っていてね……」
「この辺、グラウンドがいっぱいありますね。みんな野球やサッカーしてる。楽しそうだなぁ」
「はぁ、はぁはぁ……う、運動なんて……そんなに楽しいものじゃないわよぉ、篠崎六夏っ!!」
「この先の『西新井橋』の向こうまでいけば、休むのに良い場所があるわ」
「あ……水飲み場に、お手洗いもあるわ。なるほど、やっぱりここって『公園』なんですね」
「でもここら辺は公園ではなくて、準公園扱いなのよ? 璃紗」
「美夜、そんなにウンチクひけらかさないでいいのよ、もう……」
「ごめんなさい。蓄えた知識が勝手に、頭の中から流れ出てしまうのよね~」
「でもなんだか、この辺はやたらと『徐行』表記が多いですね~」
「ここは原則的に、スピードは時速20キロ制限なのよ。道はみんなのもの、散歩をする歩行者のものでもあるからね」
「そうなんですか……『荒川サイクリングロード』というくらいだから、自転車専用の道、くらいに思っていたわ」
「コホン! 『サイクリングロード』と言ってはいるけれど、本来は災害時の緊急道路なのよ、ここは。わたくし達サイクリストが、国から借りている、と言っても過言ではないわ」
「本当に、美夜ちゃんはすごいわね。とにかくここは『徐行』だけど、20キロ出せれば、ポタリングには十分よ」
「ぽた……ぽたぽた、ぽたーじゅすーぷ……ぽたぽた」
「そんなおバカが言えるなら、もう少し平気かしら……沙雪ちゃん、大丈夫?」
「はぁ、はぁ、はぁ……はいっ! 隣りで六夏さんが励ましてくれますから……はぁ、はぁ」
「玲緒よりよっぽど、根性があるのね、沙雪ちゃんは……ほら、玲緒もファイトよ!」
「し、白河沙雪には、負けないわ……ファイト、いっぱーつっ!!」
「さぁ、『千住新橋』を超えたわ! さぁ、みんな頑張って!」
「あっ! 花壇に色々な花が咲いてる♪ ちょっと寄っていきたいわね」
「その先に水門があるから、河川敷が途切れちゃってるの。だからそこをまたぐ感じね」
「はいはい、たいした坂じゃないから、頑張ってこぐのよ」
「はぁ、はぁ……『堀切』という駅がありますね。奥には学校らしき建物が……」
「ちょっと待ったぁ、美夜ちゃん! そのウンチクだけは、わたしに言わせて! ここの大学はね、元々は中学校だったの」
「それもなんと! あの『3年B組金髪先生』の学校の舞台だったのよっ!!」
「どう! 驚いた? ちょっとした聖地巡礼でしょ?」
「あ、あのぉ……その『金髪先生』って何ですか、麻衣さま?」
「そ、そんな、ウソでしょ!! みんな知ってるでしょ、璃紗ちゃん、美夜ちゃん?」
「なんで、どうして……どうしてみんな、知らないのよぉ! わたしと2年しか違わないのにぃ~」
「はぁ、はぁ……『ぐれーとてぃーちゃー鬼瓦』だったら、ワタシ知ってるわよ……ぽた……ぽたぽた……」