「荒川まで、車で移動なんて……考えてもみなかったわ」
「ボクもだよ。店の前にトラックが来た時は驚いたよ」
「事前に連絡をさし上げてなくて、申し訳ありませんでした」
「ううん、いいよ。今日はどうせヒマだったし、『ミカ女自転車部』初のサイクリングに立ち会えて、本当に良かったよ」
「ちょっと玲緒、この後、自転車で走るってこと……わかっているのかしら」
「車を気にせずに走れるから、とっても気持ちいいわよ」
「大丈夫です。皆さんの分を用意して、車に積んできましたから」
「ありがとう、沙雪ちゃん。私はいつも、途中の自販機で買ったりしちゃってたから、そのことつい忘れちゃってたわ」
「沙雪ちゃんには、何から何まで本当に、お世話になるわね」
「とんでもないです。今日は私、皆さんをサポートするつもりで、この車を用意してきたので」
「サポートということは……沙雪さん、一緒に走らないの?」
「はい。お恥ずかしいですが、私まだそんなにうまく乗れないので……皆さんについていくのは、もう少し自転車に慣れてしてからにしようかと思いまして」
「えっ……そんなぁ、一緒に行きましょうよ、沙雪さん!」
「沙雪さんだって、この『ミカ女自転車部』の一員でしょう」
「貴女がいないと、そこのヘタレ王子がすぐ『リサ姉、疲れたよぉ♡』とか、甘えだしてしまうわっ!」
「美夜さま、そんな言い方、しなくたっていいのに……」
「沙雪さん、せっかくこうして仲間になれたのよ。みんな一緒にいきたいと思っているはずよ」
「それにペースの事なら気にしなくて良いのよ。今日はゆっくり走る『ポタリング』だし……」
「玲緒みたいな超初心者も一緒だもの。だから大丈夫♡」
「初心者言うなーっ! でも、まあ……ワタシとしても、自分よりダメな子がいる方が、安心するわ」
「ああ、なんかワクワクしてきたけれど、ちょっと緊張かも……ドキドキ」
「璃紗は興奮して、走りに夢中になりすぎないようにね」
「もう、大丈夫よ。しっかり自分をコントロールするわ」
「あら、昨日、興奮していて、なかなか寝付けなかったでしょ?」
「寝不足はよくないね。走っていて、もしも気分が悪くなったら、すぐ連絡しておくれ。その為にサポートがいるんだから」
「あと、自転車で走ると、喉が渇く……これは当たり前のことだけど、無理しないでこまめに水分はとること」
「沙雪くん、ボトルの中身は何が入っているのかなぁ」
「スポーツドリンクとか……ワタシ、好きなんだけどなぁ」
「それでもいいけど……でも璃紗くんのように、自転車ダイエットをしている人は、水かお茶がお勧めだよ」
「いつも言っているじゃない、ダイエットには脂肪燃焼が大事だって」
「そうね。糖分やタンパク質の含まれるものを一口でも飲むと、途端に脂肪燃焼がストップすることになるわ」
「終わったら、ジュースでもアイスでも好きに飲み食いしていいから。走ってる間だけ、我慢しなさい」
「ふん、今の言葉、ちゃーんと聞いたからね。ソフトクリーム、食べまくってやるわ」
「目的地の辺りに、美味しいソフトクリーム屋があるらしいですよ、玲緒さま」
「うぅぅっ、止めてよぉ、自転車ダイエットの話をしてる傍から、もうー!!」
「こうしてお揃いのジャージ着ていると、確かに目立つわね」
「美夜ちゃん、その長い髪、まとめなくても平気かしら?」
「ええ、髪の毛がばさばさになるCGとかもないと思うから、これで平気です」
「ワタシと麻衣の自転車が、一番カッコいいと思うわ」
「ふふふっ、玲緒もついに、自分のバイクに愛着が湧いてきたのね」
「ああ……ついに私も、サイクリングロードデビューかぁ」
「それじゃ、行きましょうか。わたしが先導するけどいいかしら。途中で辛くなったら、すぐに言ってね」